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掛け軸のしまい方・保管方法|巻き方と桐箱での保存
掛軸のしまい方とは、風帯をたたみ、下から巻き、巻緒を留めて桐箱に納めるまでの手順です。掛軸は、風帯をたたみ、締めすぎない強さで下から巻き、巻緒を平らに留めて桐箱に納めます。巻き方から保管環境、虫干し、やってはいけない保管まで順に解説します。

掛け軸のしまい方の手順(巻き方)
このページの要点
- 掛軸は、風帯をたたみ、締めすぎない強さで下から巻き、巻緒を平らに留めて桐箱に納めます。
- 保管環境:湿度は55〜65%程度、温度は15〜25℃程度が望ましく、75%以上でカビ、40%以下で乾燥による割れが起きます。
- 置き場所:床から10cm以上離した棚の中段に置き、押入れの最下段や外壁に接する面は避けます。
- 虫干し:7月下旬〜8月の土用干し、10月〜11月、1月〜2月が適期で、晴天が3日続いた後に2時間ほど風を通します。
- 避けること:ビニール袋での密閉、防虫剤の直接接触、きつく巻くことの3つは避けてください。
巻き方を誤ると、本紙に横方向の折れが入ります。この折れは修復しても跡が残るため、掛軸の価値を確実に下げます。順を追って進めてください。
- 掛けたまま、下から巻き上げる:まず床に着かない高さまで両手で巻き上げます。床に置いてから巻くと埃を巻き込みます。
- 風帯をたたむ:巻き上げが風帯の位置まで来たら、左右の風帯を内側に折り返し、本体に沿わせます。左を先、右を後にたたむのが一般的です。
- 矢筈で掛緒を外す:巻いた状態のまま、矢筈で掛釘から外します。
- 畳や机の上で最後まで巻く:たるみが出ない程度に、しかし締め上げない強さで巻きます。手のひら全体で軽く押さえながら転がすようにすると、力が均等に入ります。
- 巻き終わりを確認する:上端がずれて斜めになっていないか見ます。ずれていたら少し戻して巻き直します。
きつく巻かないでください
「ゆるむと形が崩れる」と考えてきつく巻く方が多いのですが、逆効果です。強く巻くと本紙に横折れが入り、絹本の場合は繊維が切れます。巻いた軸を軽く振っても崩れない程度で十分です。緩すぎて中でずれる場合は、巻き径が細すぎることが原因なので、太巻添軸の使用を検討してください。
掛け軸はきつく巻いたほうがよいですか?
きつく巻かないでください。巻き癖と横折れの原因になります。紙が自然に沿う程度の力で、下から静かに巻き上げます。
巻緒の結び方と風帯の扱い
巻緒(まきお)は、巻いた掛軸を留める紐です。結び方には作法がありますが、まず押さえるべきは「平らに巻くこと」です。
基本の留め方
- 巻緒を掛緒の付け根から引き出し、巻いた本体の中央付近に2〜3周、ねじれないよう平らに巻き付けます。
- 最後に巻緒の端を、巻いた紐の下に差し込んで留めます。固く結ぶ必要はありません。
- 余った巻緒は、垂らしたままにせず本体に沿わせます。
巻緒をねじったまま強く締めると、その部分だけに圧力が集中し、表装に紐の跡が付きます。平たいまま巻くのは、この跡を防ぐためです。
風帯の扱い
風帯は最も傷みやすい部分です。垂れ下がっている垂風帯は、たたむときに折り目が同じ位置に付き続けると、そこから裂けます。たたむ位置を毎回少しずらすと長持ちします。
風帯の先端に付いている露(つゆ)という飾り糸がほつれていることがありますが、これは自分で切ったり結び直したりせず、表具師に相談してください。作品の一部として扱われます。各部の名称は掛軸とは(基礎知識)、表装の構造は表装とは・表装の見方で解説しています。
桐箱への収め方と太巻添軸の使い方
桐は調湿性が高く、湿度の変化を緩やかにします。虫を寄せにくい成分も含むため、掛軸の保管容器として長く使われてきました。
桐箱への納め方
- 巻いた軸を、薄紙(文庫紙)で包んでから納めると埃と擦れを防げます
- 箱の中で軸が転がるほど余裕がある場合は、和紙を丸めて詰め物にします
- 2本以上を1つの箱に入れる場合は、間に薄紙を挟み、軸先同士が当たらないようにします
- 箱に納めたら、桐箱の紐は固く締めすぎず、緩く結びます
太巻添軸(ふとまきそえじく)
軸木に被せて巻き径を太くする補助具です。巻いたときの曲率が緩やかになるため、本紙への折れの負担が大きく減ります。次のような掛軸に有効です。
- 絹本で、経年により繊維が脆くなっているもの
- 厚みのある紙や、絵具の層が厚い作品
- 既に横折れの筋が入り始めているもの
- 今後も長く保管したい価値のある軸
太巻添軸は表具店や画材店で購入できます。掛軸の幅に合わせたサイズを選んでください。桐箱も太巻用の大きめのものが必要になります。
この記事に出てくる用語
- 桐箱(きりばこ)
- 掛軸を納めるための桐材の箱で、調湿と防虫の役目を果たします。作者本人が署名した共箱、鑑定人が真贋の見解を記した極め箱があり、いずれも来歴の手がかりになります。
- 太巻添軸(ふとまきそえじく)
- 掛軸に添えて一緒に巻き、巻きの直径を大きくする筒状の道具です。巻き径が太くなるぶん本紙の曲がりがゆるやかになり、横折れの発生を抑えられます。
- 虫干し(むしぼし)
- 保管中の掛軸を広げ、風を通して湿気を抜く手入れのことです。晴天が3日続いた後に、直射日光を避けた室内で2時間ほど広げます。年に1〜2回が目安です。
- 八双(はっそう)
- 掛軸の最上部に入っている細い木の芯材です。ここに掛緒が取り付けられています。反りや割れが出ると掛けたときに軸が傾きます。
よくある誤解:きつく巻いたほうが崩れず安全だ
強く巻くと本紙に横折れが入り、絵柄を横切る折れは同一作品を比べて15%程度の減額要因になります。巻緒は形が保てる程度に軽く留め、桐箱の中で動く場合は薄紙を挟んで押さえてください。
保管場所の条件(湿度・温度・直射日光)
保管環境は、掛軸の寿命を最も左右する要素です。
| 項目 | 望ましい範囲 | 避けたい状態 |
|---|---|---|
| 湿度 | 55〜65%程度 | 75%以上(カビ)/40%以下(乾燥・割れ) |
| 温度 | 15〜25℃程度 | 急激な温度変化、真夏の締め切った部屋 |
| 光 | 暗所 | 直射日光、蛍光灯の直下 |
| 場所 | 床から離れた棚の中段 | 床に直置き、押入れの最下段、外壁に接する面 |
置き場所の具体例
押入れに入れる場合は、すのこを敷いて床から浮かせ、外壁側の面から10cm程度離してください。外壁側は結露しやすく、そこに接した箱からカビが出ます。上段のほうが下段より条件は良好です。
蔵がある家では蔵が最適とされてきましたが、現代では換気されなくなった蔵の中が高湿度になっていることもあります。長年開けていない蔵から出した掛軸にカビが多いのはこのためです。
防虫・防カビ対策と薬剤使用の注意
掛軸を食害する虫は、シミ(紙魚)、カツオブシムシ、シバンムシなどです。糊と紙を好むため、表装の糊層が狙われます。虫食いは小さな穴として現れ、進むと本紙まで達します。
基本の対策
- 桐箱に納める(それ自体が一定の防虫効果を持ちます)
- 年1〜2回の虫干しで、湿気と虫を追い出す
- 収納場所を掃除し、埃を溜めない
- 他の被害品と一緒に保管しない
防虫剤の使い方に注意
ナフタリンやパラジクロロベンゼンなどの防虫剤は、掛軸に直接触れさせないでください。薬剤が結晶化して本紙に付着したり、成分が顔料と反応して変色させたりすることがあります。特にパラジクロロベンゼンは樹脂や塗装を侵すため、軸先の塗りを傷めることがあります。使う場合は桐箱の外、収納する棚や引き出しに置き、複数の種類を混用しないでください。除湿剤も同様で、直接触れると局所的に乾燥しすぎます。
カビが出てしまった場合、市販のカビ取り剤や漂白剤は使わないでください。本紙が回復不能に傷みます。対処はカビ・シミのある掛軸は売れるかをご覧ください。
虫干しの時期と頻度
虫干し(曝涼=ばくりょう)は、掛軸を広げて風を通し、こもった湿気を抜く作業です。年に1〜2回行うだけで、状態の維持に大きな差が出ます。
適した時期
| 時期 | 名称 | 特徴 |
|---|---|---|
| 7月下旬〜8月 | 土用干し | 梅雨明け後、湿度が下がる時期。最も一般的 |
| 10月〜11月 | 秋の虫干し | 空気が乾き、気温も安定。作業しやすい |
| 1月〜2月 | 寒干し | 湿度が最も低い。ただし乾燥しすぎに注意 |
やり方
- 晴れが2〜3日続いた後の、湿度の低い日を選びます。雨の翌日は避けてください。
- 直射日光の当たらない室内で、窓を開けて風を通します。屋外や日光の下に出してはいけません。
- 掛軸を掛けるか、広げた状態で1〜2時間置きます。丸一日置く必要はありません。
- 同時に、本紙の状態、虫食い、カビ、折れの有無を確認します。
- 桐箱の中も風を通し、埃を払ってから元に戻します。
この機会に写真を撮っておくと、後で査定を依頼するときにそのまま使えます。撮り方はLINE写真査定、価値の確認手順は掛軸の価値の見分け方をご覧ください。
やってはいけない保管方法
相談を受ける中で実際によくある、掛軸を傷める保管方法をまとめます。
- ビニール袋や密閉容器に入れる:湿気が抜けず、内部でカビが繁殖します。桐箱がない場合も、通気性のある布や薄紙で包んでください。
- 床に直置きする:床面は湿気が溜まりやすく、結露の影響も受けます。棚や台に上げてください。
- 立てて長期保管する:軸木側に重量が集中し、下端が傷みます。桐箱ごと横に寝かせるのが基本です。
- 新聞紙に包む:インクが移り、酸性紙のため本紙を酸化させます。使うなら中性の薄紙です。
- 輪ゴムで留める:ゴムは劣化して溶け、表装に貼り付きます。巻緒を使ってください。
- 防虫剤を箱の中に直接入れる:薬剤が結晶化して付着します。
- 掛けたまま何年も放置する:日焼け、埃、自重による伸びが進みます。
- 湿った状態で巻く:雨の日に外した軸をそのまま巻くと、内部でカビが出ます。乾いてから巻いてください。
まとめて押入れに入れっぱなしの場合
何十本もの掛軸が押入れや蔵に眠っているという相談は少なくありません。すべてを毎年虫干しするのは現実には難しいものです。その場合、まず湿気の少ない場所へ移し、床から離すだけでも進行を遅らせられます。今後も保管し続けるか、手放すかを決めかねている場合は、遺品整理・生前整理で出た掛軸もご参考ください。
やってはいけない保管方法は何ですか?
ビニール袋での密閉、押入れの床への直置き、新聞紙での包みの3つです。いずれも湿気を呼び、カビとシミの原因になります。
これまでに拝見した軸のうち、押入れの床に直接置かれていたものはほぼ例外なく下部にシミが出ています。桐箱ごと棚に上げ、床から離すだけで状態は大きく変わります。カビが本紙全面に回った軸は、共箱が揃っていても値が付かないことがあります。出張買取・宅配買取のご依頼でも、現状のままでお出しください。
カビ・シミが出てしまった場合の対処
桐箱を開けたらカビが生えていた、というのはよくあることです。まずやってはいけないことを確認してください。
してはいけない応急処置
濡れた布で拭く、消毒用アルコールを吹きかける、漂白剤を塗る、歯ブラシでこする、アイロンをかける——いずれも本紙を傷め、修復不能な損傷を残します。カビの菌糸は紙の繊維の中に入り込んでいるため、表面をこすっても取れず、こすった箇所だけ毛羽立って跡になります。
できること
- まず他の掛軸から隔離します。胞子が移ります。
- 湿度の低い日に、日陰で風を通して乾かします。乾かすだけでカビの活動は止まります。
- 表面に粉状に浮いたカビは、乾いた柔らかい刷毛で「払う」程度にとどめます。押し付けたりこすったりしないでください。
- 状態を写真に撮っておきます。
- その状態のまま、表具師または買取業者に見せます。
専門的なシミ抜きや洗浄修復は表具店で対応できますが、費用は一本あたり数万円から十数万円かかることが一般的です。売却を考えている場合、修復せず現状のまま査定を受けたほうが手取りが多くなることが少なくありません。理由と判断の目安はカビ・シミのある掛軸は売れるかと掛軸の修理・修復で詳しく説明しています。
ほかの記事は掛軸コラム一覧から読めます。あわせて掛軸の飾り方と掛け方、カビ・シミのある掛軸をご覧ください。
よくあるご質問
掛け軸をしまうときの手順を教えてください
掛けたまま下から巻き上げる、風帯を内側にたたむ、矢筈で掛緒を外す、畳や机の上で最後まで巻く、巻き終わりのずれを確認する、という順で進めます。床に置いてから巻くと埃を巻き込みます。巻き上げが風帯の位置まで来たら、左右の風帯を内側に折り返して本体に沿わせてください。最後に上端が斜めにずれていないか見て、ずれていたら少し戻して巻き直します。
掛け軸はきつく巻いたほうがよいですか
きつく巻かないでください。強く巻くと本紙に横方向の折れが入り、絹本では繊維が切れます。この折れは修復しても跡が残り、査定でも減額の対象になります。たるみが出ない程度で、巻いた軸を軽く振っても崩れない強さで十分です。手のひら全体で軽く押さえながら転がすように巻くと力が均等に入ります。緩くて中でずれる場合は巻き径が細すぎるのが原因です。
巻緒はどう結べばよいですか
平らに巻くことが第一で、固く結ぶ必要はありません。巻緒を掛緒の付け根から引き出し、巻いた本体の中央付近にねじれないよう2〜3周巻き付け、端を紐の下に差し込んで留めます。余った巻緒は垂らさず本体に沿わせてください。ねじれたまま強く締めると、その部分だけに圧力が集中して表装に紐の跡が残ります。
桐箱がない掛け軸はどこにしまえばよいですか
通気性のある薄紙(文庫紙)や木綿の布で包み、床から離れた棚に横に寝かせて置いてください。ビニール袋や密閉容器は湿気が抜けず、内部でカビが繁殖するため使わないでください。新聞紙もインクが移り、酸性紙のため本紙を酸化させます。桐箱は調湿性が高く虫を寄せにくい成分も含むため、表具店や通販で入手して納めておくと状態が安定します。
掛け軸の保管に適した湿度と温度はどのくらいですか
湿度55〜65パーセント、温度15〜25度程度が目安です。湿度75パーセント以上ではカビが出やすく、40パーセント以下では裂が縮んで本紙に引きつれが生じます。置き場所は暗所で、床から離れた棚の中段が適します。真夏に締め切った部屋や、急激な温度変化が起きる場所は避けてください。掛軸は長い時間をかけて環境に馴染むもので、急な変化に弱いためです。
押入れに保管しても大丈夫ですか
すのこを敷いて床から浮かせ、外壁側の面から10cm程度離せば保管できます。外壁側は結露しやすく、そこに接した箱からカビが出ます。押入れの最下段より上段のほうが条件は良好です。床に直置きされていた掛軸は、下部にシミが出ていることがほとんどです。長年開けていない蔵も、換気されず高湿度になっていることがあるため過信しないでください。
防虫剤は何を使えばよいですか
防虫剤は桐箱の中に直接入れず、収納する棚や引き出しに置いてください。ナフタリンやパラジクロロベンゼンが掛軸に触れると、薬剤が結晶化して本紙に付着したり、成分が顔料と反応して変色させたりすることがあります。特にパラジクロロベンゼンは樹脂や塗装を侵し、軸先の塗りを傷めます。複数の種類を混用しないでください。除湿剤も同様で、直接触れると局所的に乾燥しすぎます。
虫干しは年に何回、どの時期に行えばよいですか
年1〜2回で十分です。梅雨明け後の7月下旬から8月(土用干し)、空気が乾く10月から11月が適期で、1月から2月の寒干しもあります。晴れが2〜3日続いた後の湿度の低い日を選び、直射日光の当たらない室内で窓を開け、1〜2時間広げて風を通します。屋外や日光の下に出してはいけません。この機会に虫食い、カビ、折れの有無を確認し、写真を撮っておくと後で役立ちます。
やってはいけない保管方法にはどんなものがありますか
ビニール袋や密閉容器に入れる、床に直置きする、立てて長期保管する、新聞紙に包む、輪ゴムで留める、防虫剤を箱の中に直接入れる、湿ったまま巻く、の7つは避けてください。立てて置くと軸木側に重量が集中して下端が傷み、輪ゴムは劣化して溶け表装に貼り付きます。雨の日に外した軸をそのまま巻くと、内部でカビが出ます。乾いてから巻いてください。