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掛け軸の飾り方|掛け方の手順・高さ・季節の掛け替え
掛軸の飾り方とは、矢筈で軸を掛け、巻緒を外して風帯を整えるまでの一連の手順です。掛軸は矢筈を使い、両手で軸を支えながら掛けます。掛ける高さの目安、床の間がない場合の方法、季節の掛け替えまで、実際に手を動かす順に解説します。

掛け軸の飾り方の基本手順
このページの要点
- 掛軸は矢筈を使い、両手で軸を支えながら掛けます。2人で作業するのが最も確実です。
- 手順:1人が軸を支え、もう1人が掛緒を掛け、巻緒を外し、風帯を左右に整えるという順序です。
- 高さ:軸先が畳から10cm程度上に来る位置が標準です。
- 掛け替えの時期:季節の画題は2週間ほど前から掛け始め、1〜2か月で掛け替えるのが理想です。
- 環境:直射日光、蛍光灯の直下、エアコンの風が直接当たる場所は避けてください。
掛軸を掛ける作業は、次の6つの手順で進めます。畳や絨毯の上など、落としても傷つかない場所で始めてください。
- 桐箱から出し、巻いたまま床に置く:巻緒(まきお)をほどき、軸先を持って横に寝かせます。
- 掛緒(かけお)を確認する:上部の紐が切れかけていないか、結び目が緩んでいないかを見ます。ここが切れると落下します。
- 矢筈(やはず)に掛緒を掛ける:矢筈の先端の二股部分に掛緒を引っ掛けます。
- 掛釘に掛ける:矢筈を伸ばして掛釘に掛緒を掛け、矢筈をそっと外します。
- 巻いた本体を下ろす:片手で軸先を支えながら、少しずつ転がすように下ろします。手を離して落とすと本紙に横折れが入ります。
- 風帯を整える:たたまれた風帯を左右に開き、たるみを直します。
外すときは逆の順序です。まず風帯をたたみ、下から巻き上げて巻緒の位置まで巻き、矢筈で掛緒を掛釘から外します。巻いてから外すのが原則で、掛けたまま外そうとすると軸が振れて壁や柱にぶつかります。
手を洗ってから
手の脂は時間をかけて紙や絹にシミとして浮き出ます。本紙には触れず、扱うのは表装部分と軸先だけにしてください。手袋を使う場合は、滑りにくい木綿の手袋が向きます。
矢筈の使い方と安全な掛け方・外し方
矢筈は、先端がY字に割れた長い棒です。竹製や木製で、伸縮式のものもあります。掛軸を高い位置に掛けるための道具で、これがあると作業が格段に安全になります。
使い方
- 矢筈の先端の割れ目に掛緒を挟むように引っ掛けます。深く入れすぎると外すときに引っかかります。
- 矢筈をまっすぐ立て、掛釘の位置まで持ち上げます。横に振らないよう、体の正面で扱ってください。
- 掛釘に掛緒を掛けたら、矢筈を軽く手前に引いて外します。上に持ち上げて外そうとすると掛緒ごと外れます。
矢筈がない場合
丈の短い軸で、掛釘に手が届く高さであれば、脚立を使って直接掛けることもできます。ただし片手で軸を支えながら片手で掛緒を扱うことになり、不安定です。2人で作業するのが最も確実で、1人が軸を支え、もう1人が掛緒を掛けます。
代用品として、先端に切り込みを入れた細い棒や、洋服のハンガー掛け用の棒を使う方も見えますが、先端が滑らかでないと掛緒を傷めます。長く使うなら矢筈を1本用意しておくと安心です。
この記事に出てくる用語
- 矢筈(やはず)
- 掛軸の掛緒を高い場所の釘に掛けるための、先が二股になった長い棒です。床の間の落掛(おとしがけ)に打たれた釘まで手が届かないときに使います。先端で掛緒を受け、押し上げるように掛けます。
- 掛緒(かけお)
- 掛軸の最上部、八双の裏に取り付けられた吊るすための紐です。経年で擦り切れることがあり、切れたまま掛けると落下します。ほつれが見えたら掛ける前に確認してください。
- 巻緒(まきお)
- 巻いた掛軸を留めるために、掛緒の中央から出ている長い紐です。掛けるときは外して掛緒に添わせ、しまうときは平らに重ねて留めます。
- 風帯(ふうたい)
- 掛軸の上部から2本垂れ下がっている細長い裂です。垂れたままの垂風帯と、天に縫い付けた押風帯があります。掛けたあとに左右へ軽く整えます。
掛ける高さと位置の目安
床の間には掛釘があらかじめ打たれているため、高さは基本的に固定されます。問題になるのは、床の間がない壁に掛ける場合や、床の間に対して軸の丈が合わない場合です。
基本の考え方
- 軸の下端(軸木)が、床の間の床面から5〜10cm程度上に来るのが標準です。床に着いてしまうと湿気を吸います。
- 床の間の落し掛け(上部の横木)から軸の上端までは、あまり空けすぎないほうが収まりよく見えます。
- 正座して見上げたときに、本紙の中心が視線のやや上に来る高さが、和室では自然とされます。
床の間の丈に対して軸が長すぎる場合
床に着いてしまうときは、軸を無理に折り曲げたり巻き上げて留めたりせず、丈の合う別の軸に替えるのが本来です。どうしてもその軸を掛けたい場合は、表具師に相談すると天地を詰めた表装に仕立て直すことができます。ただし表装の仕立て直しは費用がかかり、作品によっては価値の面で不利に働くことがあるため、事前に確認してください。詳しくは表装とは・表装の見方をご覧ください。
掛け軸はどの高さに掛けるのが正しいですか?
座って見上げたときに軸の中心が目線のやや上に来る高さが目安です。床の間では、天井の落し掛けから風帯が少し下がる位置に合わせます。
よくある誤解:床の間がないと掛軸は飾れない
洋室の壁でも、掛軸用のフックや自立式の掛軸スタンドを使えば飾れます。要点は、直射日光と空調の風を避け、掛けっぱなしにせず1〜2か月で巻いて休ませることであり、床の間の有無ではありません。
床の間がない場合の飾り方
床の間のない住まいでも掛軸は飾れます。方法は主に3つです。
| 方法 | 設置 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 自在掛け(鴨居用) | 鴨居に金具を引っ掛ける。壁に穴を開けない | 和室、賃貸住宅 |
| 突っ張り式の掛軸掛け | 床と天井で突っ張って柱を立てる | 洋室、壁に穴を開けたくない場合 |
| 壁面の軸受け金具 | 石膏ボード用フックや下地に直接取り付ける | 持ち家、定位置に飾りたい場合 |
洋室に掛ける場合は、丈の短い軸(尺三立や、さらに短い小軸)を選ぶと収まります。壁の色が白系であれば、表装の色が浮きやすいため、落ち着いた文人表装の軸が馴染みやすいものです。
エアコンの風が直撃する位置は避ける
洋室に掛ける際に最も多い失敗が、エアコンの風の通り道に掛けてしまうことです。乾燥した風が当たり続けると、裂が縮んで本紙に波打ちが出たり、糊が弱って浮きが生じたりします。直射日光と同じく、空調の風も掛軸の大敵です。
季節・年中行事ごとの掛け替え
掛軸は、季節を少し先取りして掛けるのが習わしとされます。目安はその季節が来る2週間ほど前からで、盛りを過ぎたら早めに替えます。桜が満開になってから桜の軸を掛けるのは遅い、という考え方です。
| 時期 | 行事 | よく掛けられる画題 |
|---|---|---|
| 1月 | 正月・初釜 | 松竹梅、日の出、鶴亀、蓬莱山、旭日 |
| 2月 | 節分・涅槃会 | 梅、鬼、涅槃図、椿 |
| 3月 | 桃の節句・彼岸 | 立雛、官女、桃、菜の花 |
| 4月 | 花見 | 桜、若草、燕 |
| 5月 | 端午の節句 | 鍾馗、武者絵、鯉の滝登り、藤、菖蒲 |
| 6月 | 梅雨 | 紫陽花、蛍、雨中の山水、青楓 |
| 7月 | 七夕 | 朝顔、瀧、涼景、星 |
| 8月 | 盆 | 仏画、達磨図、地蔵、朝顔、月 |
| 9月 | 重陽・十五夜 | 菊、月に兎、秋草、萩 |
| 10月 | 中秋・炉開き | 紅葉、柿、渡り鳥、秋の山水 |
| 11月 | 炉開き・七五三 | 紅葉、山茶花、開炉の禅語 |
| 12月 | 歳暮 | 雪景、寒椿、水仙、達磨 |
これはあくまで一般的な目安で、地域や家によって習わしは異なります。厳密な決まりというより、季節を感じ取る手掛かりと考えてください。茶席の禅語については茶道の掛軸の言葉・禅語一覧で月別に整理しています。
飾る場所の環境(日光・湿気・空調)の注意
掛軸を傷める原因の上位3つが、日光、湿気、空調です。それぞれの影響と対策を整理します。
直射日光
紫外線は顔料を退色させ、紙と絹を脆くします。特に藍や紫といった有機顔料は数年で目に見えて色が抜けます。窓に面した壁、西日の入る部屋は避けてください。カーテンやレースで遮るだけでも違います。日焼けによる変色は「ヤケ」と呼ばれ、査定でも減額要因になります。
湿気
湿度が高いとカビが出ます。特に押入れに面した壁、北側の部屋、結露する窓の近くは注意が必要です。逆に湿度が低すぎると裂が縮み、本紙に引きつれが出ます。理想は湿度55〜65パーセント程度です。
空調の風
エアコンや扇風機の風が直接当たると、局所的に急激な乾燥が起こります。掛軸は横に長い時間をかけて環境に馴染むもので、急な変化に弱いものです。風の通り道からは外してください。
すでにカビやシミが出ている場合の対処はカビ・シミのある掛軸は売れるかにまとめました。
直射日光の当たる場所に掛けても大丈夫ですか?
避けてください。紫外線で本紙が変色し、絹本では劣化が早まります。査定の現場でも、日焼けした軸は同じ作者でも減額の対象になります。
長く飾り続けるときの注意点
掛けっぱなしは掛軸にとって負担です。垂直に吊られた状態が続くと、自重で本紙が伸び、上部に負荷が集中します。加えて、埃、日光、湿度変化に晒され続けます。
掛ける期間の目安
- 1〜2か月で掛け替えるのが理想です。季節ごとの掛け替えは、この点でも理にかなっています。
- 年中同じ軸を掛けたままにする場合でも、半年に一度は外して数日巻いた状態で休ませてください。
- 掛けている間、軸の裏側に埃が溜まります。掛け替えのときに、乾いた柔らかい刷毛で表面を軽く払うとよいでしょう。濡らした布は使わないでください。
掛けたままにしがちな掛け軸
仏壇の中の御本尊や脇掛は、性質上、常時掛けたままになります。この場合は湿度と直射日光にだけ注意し、仏壇の扉を閉める習慣があれば埃の面では有利です。詳しくは仏壇の掛軸の扱いと処分をご覧ください。
虫にも注意
シミ(紙魚)やカツオブシムシは紙と糊を食べます。飾っている間よりも、しまっている間に被害が出ます。防虫の考え方は掛軸のしまい方・保管方法で扱っています。
査定でお預かりする軸には、長く掛けたままにしたことによる日焼けや横折れが見られます。掛けっぱなしにせず、半年を目安に桐箱へ戻すのが結果的に価値を保ちます。掛け替えの手間を惜しんで傷んだ軸は、同じ作者でも減額の対象になります。出張査定・宅配買取のいずれでも、状態はそのままで拝見します。
飾らない期間の保管方法
掛け替えた軸は、正しく巻いて桐箱に納めます。ここで手を抜くと、次に出したときに折れやカビが出ています。
- 風帯を左右それぞれ内側に折りたたむ
- 下から上へ、たるみが出ない程度に、締めすぎずに巻く
- 巻緒を平らに、ねじれないように2〜3周巻いて留める
- 薄紙(文庫紙)で包むか、そのまま桐箱に納める
- 桐箱を、床から離れた風通しのよい場所に置く
桐箱は湿度を一定に保つ働きがあるため、掛軸の保管に適しています。桐箱がない場合は、通気性のある布や薄紙で包み、密閉容器やビニール袋には入れないでください。ビニール袋は内部に湿気を閉じ込め、カビの温床になります。
巻き方、巻緒の結び方、太巻添軸の使い方、虫干しの時期については掛軸のしまい方・保管方法で手順を追って解説しています。保管中に傷んでしまった軸の扱いは掛軸の修理・修復をご覧ください。
ほかの記事は掛軸コラム一覧から読めます。あわせて掛軸のしまい方・保管方法、床の間の掛軸の選び方をご覧ください。
よくあるご質問
掛け軸を掛ける手順を教えてください
桐箱から出して巻緒をほどく、掛緒の傷みを確認する、矢筈(やはず)に掛緒を掛ける、掛釘に掛ける、巻いた本体を片手で支えながら少しずつ下ろす、風帯を左右に開く、という6手順で進めます。畳や絨毯の上など、落としても傷つかない場所で始めてください。手の脂は時間をかけてシミとして浮き出るため、本紙には触れず、扱うのは表装部分と軸先だけにします。
矢筈がない場合はどうやって掛ければよいですか
二人で作業するのが最も確実です。一人が軸を支え、もう一人が掛緒を掛釘に掛けます。丈の短い軸で掛釘に手が届くなら、脚立を使って直接掛けることもできますが、片手で軸を支えながらの作業になり不安定です。先端に切り込みを入れた棒を代用する方もいますが、先端が滑らかでないと掛緒を傷めます。繰り返し掛けるなら矢筈を1本用意しておくと安心です。
掛け軸は一人でも掛けられますか
矢筈があれば一人でも掛けられます。矢筈の先端の割れ目に掛緒を挟み、体の正面でまっすぐ立てて掛釘まで持ち上げ、掛けたら矢筈を軽く手前に引いて外します。その後、巻いた本体を片手で軸先を支えながら、転がすように少しずつ下ろします。手を離して落とすと本紙に横折れが入ります。手が届かない高さや丈の長い軸は、二人で行ったほうが安全です。
掛け軸はどのくらいの高さに掛けるのが目安ですか
軸の下端(軸木)が床の間の床面から5〜10cm程度浮く高さが標準です。床に着いてしまうと湿気を吸います。上部は、落し掛け(床の間上部の横木)から軸の上端まであまり空けすぎないほうが収まりよく見えます。正座して見上げたとき、本紙の中心が視線のやや上に来る高さが和室では自然とされます。床の間には掛釘があらかじめ打たれているため、高さは基本的に固定されます。
床の間がない部屋でも掛け軸を飾れますか
飾れます。方法は3つで、鴨居に引っ掛ける自在掛け、床と天井で突っ張る掛軸掛け、壁面の軸受け金具です。自在掛けと突っ張り式は壁に穴を開けないため、賃貸住宅でも使えます。洋室では丈の短い軸(尺三立や小軸)が収まりやすく、白い壁には落ち着いた色調の文人表装が馴染みます。詳しい選び方は床の間の掛軸の選び方もご覧ください。
掛け軸を掛けてはいけない場所はありますか
直射日光の当たる壁、エアコンや扇風機の風が直撃する位置、押入れに面した壁や結露する窓の近くは避けてください。紫外線は顔料を退色させ、藍や紫といった有機顔料は数年で目に見えて色が抜けます。空調の乾いた風が当たり続けると裂が縮んで本紙に波打ちが出ます。理想は湿度55〜65パーセント程度で、ダウンライトの真下も光が強すぎるため向きません。
季節ごとの掛け替えはいつ行えばよいですか
その季節が来る2週間ほど前から掛け始め、盛りを過ぎたら早めに替えるのが習わしとされます。桜が満開になってから桜の軸を掛けるのは遅い、という考え方です。1月は松竹梅や日の出、5月は鍾馗や菖蒲、9月は菊や月に兎、12月は雪景や水仙といった目安があります。地域や家によって習わしは異なるため、厳密な決まりではなく季節を感じ取る手掛かりとお考えください。
掛けっぱなしにしても問題ありませんか
望ましくありません。垂直に吊られた状態が続くと自重で本紙が伸び、上部に負荷が集中します。加えて埃、日光、湿度変化に晒され続けます。1〜2か月で掛け替えるのが理想で、同じ軸を長く掛ける場合も半年に一度は外して数日巻いた状態で休ませてください。掛け替えのときは、乾いた柔らかい刷毛で表面の埃を軽く払います。濡らした布は使わないでください。
掛けた掛け軸を壁から外すときに気をつけることはありますか
掛けたまま下から巻き上げるのが原則です。まず床に着かない高さまで両手で巻き上げ、風帯の位置まで来たら左右の風帯を内側に折り返して本体に沿わせ、巻いた状態のまま矢筈で掛緒を掛釘から外します。掛けたまま外そうとすると軸が振れて壁や柱にぶつかります。床に置いてから巻くと埃を巻き込むため、最後の巻き取りは畳や机の上で行ってください。